onsen02








「うわぁー、熱海だぁ、温泉だぁ」
「温泉には金属バットは不向きだよ」
 バッドを担ぎ駅から出た途端に大きな声で叫ぶ十四松に後ろからそっと一松が囁く。
「えーっ! 温泉で素振りしようと思ったのに。って、でもこれ木製だから大丈夫!」
 一度大きくショックを受けたように驚いてすぐに立ち直る十四松にちっと小さく一松が舌を打つ。
「一松の闇は深いなぁ」
 二人のやり取りを見ていた4人はおそ松の呟きに深く頷いた。
「ねぇ、それより早く旅館行こうよ。早く温泉は入りたいよー」
 トド松がすばやく気分を切り替えてうきうきと予約した旅館の名前を書いたメモを持っているチョロ松に言う。
「そうだな。気からは近いって聞いたから旅館名を聞きながら歩いていこう」
押し切られてきてしまったのだから温泉を楽しまないと損だとチョロ松も同意してポケットから目もした紙を取り出した。
本当に有名で大きなところだったらしくメモと看板を見ているだけであっという間に旅館に付いてしまった。
しかし、部屋に案内された途端に半数が不満をあげはじめた。
「これなんで個室複数予約なの? しかも三人ずつじゃなくて四人と二人って偏ってない?」
 チョロ松が言えば十四松がバッド抱えて声を張る。
「四人部屋じゃバットふれなぁーい」
 語尾を上げる妙なイントネーションで元気に言いながら部屋の中でしっかりと振れないと言ったバッドを振る。
「ねぇ、ねぇ、これ2人部屋に誰行くの? 二人だよ? 凄く気まずいよ?」
 兄弟の誰かと二人きりになるのを妙に嫌がるトド松がそわそわと不安げに続ける。
 そのトド松の不安におそ松が胸を張って答えた。
「俺達は六つ子だぞ、全てが平等だ」
「だったら大部屋で予約しろよ」
 ぼそりと一松が突っ込む。
「一松ぅ、はなしの腰折らないでくれるぅ?」
 聞き漏らさなかったおそ松がすかさず突っ込み、咳払いをする。
「えーっと、続けるよ。だが平等じゃない事もある」
「初めの言葉全否定かよ!」
 今度はチョロ松が声を張り上げて突っ込む。
「え? チョロ松がそこ突っ込むの?」
「俺が突っ込んで何か問題でも!? 誰が突っ込んでも同じでしょ!」
 突っ込んだ事を問題にせず自分が突っ込む事に非難の視線を向けるおそ松に更にチョロ松が声を上げる。
「だって、お前だけオメガじゃん」
 その言葉に素振りをしていた十四松の動きが止まり、トド松が青くなり、みんなの視線がいっせいにチョロ松に集まる。
 静まり返る部屋の中で、チョロ松が自分を見つめる兄弟を見回す。
「た、確かにオメガだけど、それ部屋割りに関係ある?」
「俺は気にしない。だからお前も気にするな」
 空気を読まず部屋の中なのにしていたサングラスを外し、きめのポーズをしてカラ松がにやりと笑う。
「確かに発情しないなら関係ないよね。今までずっと同じ部屋で寝起き出来てるし」
 またぼそりと一松が呟く。
 その言葉にトド松はさすがにポーカーフェイスを崩さないが背中につめたい汗が流れる。
 発情以前におそ松兄さんとヤっちゃってるし!
 ヤってはないけど寝てるときにもぞもぞしてるし!
 隣で寝ているからこそわかる気配にここ最近トド松は何度眠りを妨げられたか。
 しかし、おそ松はトド松の思いをよそに一松に向けてわかっていないと言うように説明しはじめる。
「一松ぅ、あまーい、甘いよ。日常とは違う環境で開放的気分。そんな環境変化がチョロ松に影響しないとでも?」
「するかもね」
「ちょっと何勝手に俺の気分を推測してるの? しかも一松ものっかてるし!」
 トド松同様にチョロ松もこの展開に背中に嫌な汗が流れる。
 もともとおそ松が温泉に行きたいと誘っていたのはチョロ松だ。
 おそ松は二人部屋に自分と泊まろうとしている。
 その先にあるのは考えるまでもない。
「兄として、環境変化での影響を極力与えないように責任を持って俺がチョロ松と二人部屋に泊まろう」
「俺の意志は!?」
「ない」
 胸を張り宣言するおそ松に、チョロ松が噛み付くがそれをすっぱりと切り捨ておそ松はチョロ松の手を引っ張り部屋を出た。
「十四松ぅ俺とチョロ松の荷物持ってきて。じゃあ後で大浴場でな」
十四松をポーター代わりに使うことも忘れない。
「横暴だぁぁぁあああ」
 チョロ松の声を聞きながらカラ松、一松、トド松は、その後に荷物を持ち出て行った十四松を見送った。
「最近、おそ松兄さんチョロ松兄さんにちょっかいかけまくりだよね。なんか独占したいって感じ」
 ふふふと笑いながら一松が呟く。
「そうかな。おそ松兄さんに何かと意見するのってチョロ松兄さんだからお互いにちょっかいかけてるように見えるんじゃない?」
 冷や汗を流しながらトド松が誤魔化すように言う。
「まあ、言われてみればチョロ松兄さんはオメガだから発情フェロモンで簡単に間違いが起こるんだよな」
「ま、間違いって一松兄さんへんな事言わないでよ」
 言えない!
 おそ松兄さんとチョロ松兄さんがすでにヤっちゃってるって!
 トド松は平静を装い準備されていたお茶菓子を手に取る。
「あの時、孫保証できるって確かにオメガならではの発想だったのかもね。扶養選抜に受かってる身としては関係ないけど」
 一松はふふふふと笑いカラ松の振る傷をえぐり楽しそうにする。
 この場で扶養されなかったのはカラ松のみ。
 しかし、温泉と言う場所がカラ松を開放的にさせるのか、普段なら打ちひしがれるカラ松が不適に笑った。
「だが俺はチョロ松に養ってもらえると言質を取っている。フェロモンで玉の腰にのるチョロ松を応援するぜ」
 ああ、そういえばそんな事言ってなぁ。
 玉の輿は無理っ、もうおそ松兄さんとデキてるからっ
と一松とトド松はそれぞれ思いながら、窓に脚をかけて無駄にポーズを付けて外を見るカラ松を見た。





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