onsen01








「ねぇねぇ、やっぱさぁ行きたいよねぇ温泉」
 イヤミとチビ太のレンタル彼女騒動がひと段落すると思い出したかのようにおそ松はチョロ松にあの日見せていたチラシを事あるごとに見せ始めた。
 何度目になるか分からないシワシワになったチラシを目前に見せられてチョロ松の米神に怒りマークが浮かぶ。
「行きたきゃチビ美と行けば? 薬もまた1時間ぐらい効くように戻ってるかもしれないし」
「え〜、チビ太と行ってもたのしくなーい。あいつらから取り返したお金もあるしさぁ、チョロ松ぅ行こうよ〜」
 畳の上で駄々を捏ねる子供のように身体をくねらせるおそ松にチョロ松は開いていた求人雑誌を勢いよく閉じた。
「あれは孫の養育費だって言って使うの禁止したのおそ松兄さんじゃないの!? なに一人で使おうとしてんの!」
「だから孫作りに使うんじゃないか。イヤミの家ばっかりじゃ刺激がなくて出来るものも出来ないのかもしれないじゃん。熱海でやったら一発で出来るかもよ」
「ばっばかっ! 家の中で一発で出来るとか言うな!」
 幸いみんなは居間でテレビを見ているため部屋で少しくらい大きな声を出しても気が付かない。
 ……はずだった。
「えー? なになに熱海で一発すんの?」
 十四松がタイミングが良いのか悪いのか襖を開けて部屋に入ってくる。
 その後ろには猫を抱いた一松。
「一発って? 何かすんの?」
 ぼそりと拾って欲しく無い言葉をしっかりと拾いあげて聞いてくる。
「ふっ一発大きな花火をあげてくるのか?」
 その後ろでカラ松が決めポーズで意味不明な事を呟く。
 更にその後ろでトド松が少し焦り気味に言う。
「ああ、温泉良いよねぇ。みんなで広い湯船にはいる温泉!」
「それ銭湯と何処違うの!」
 思わず突っ込んでしまったチョロ松に十四松が手を上げて主張する。
「一発! 温泉は一発があるから違う。ね、おそ松兄さん」
「おう! 温泉で一発だ!」
 みんなの勢いのままにおそ松は拳を頭上に掲げると、4人は呼応しておそ松と同じように拳を振り上げた。
「一発!」
「ちょっ、ちょっと何一発で盛り上がってんの? 温泉で一発て――」
 唯一反論しはじめたチョロ松の口を後ろから肩を組むようにのぱされたトド松の手が塞ぐ。
「チョロ松兄さん、いいじゃない。温泉楽しいよ」
 反論を物理的に封じられたチョロ松がトド松を睨む。
 しかしチョロ松はにっこり笑って小さな声で呟いた。
「反論しない方がおそ松にいさんと二人きりにならずにすむよ」
「!?」
 驚いて目を見開くチョロ松にトド松はうふふといつものように可愛さをアピールした笑みを向けた。
 ばれてる?
 トド松は回りの空気を読むことには長けている。
 あの日以来、肩を組んだりなどおそ松との接触に対してぎこちなさを隠しきれていなかったかもしれない。
 ヤっちゃったことまでバレてないよな。
 チョロ松がそう思って内心冷や汗をかきながら冷静をよそおいトド松に返した。
「な、なんのことかなぁ〜」
 声が半分裏返り、トト子のコンサートでマネジャーとして兄弟を利用した時のように隠しきれていないチョロ松にトド松は組んでいた肩を慰めるようにとんとんと叩いた。
「これに関してはおそ松兄さんを敵にまわしたく無いけど、ライバル的にはチョロ松兄さんの意志を尊重してかげながら応援するよ。じゃあそういうことで」
 言い終えて改めてトド松は肩を叩いて騒ぐ兄達の和に加わった。
 これって何?
 敵に回すって何?
 トド松の言葉に更に冷たくなっていくチョロ松の背中に十四松の「風呂上りに浴衣で野球!」という叫び声と「それは卓球でしょ、十四松兄さん」といつものように訂正を入れるトド松の声が届いた。





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