mago2








「チョロ松どこかなぁ」
 おそ松はいつものように街をぶらぶらしながら呟いた。
 勢いよく家を出たはいいが、おそ松にはチョロ松がいる場所のあてがない事に今になって気がついたのだ。
 だがかっこよく出てきた手前、手ぶらでかえるのはかっこ悪い。
「にゃーちゃん……は出禁かな?」
 以前おそ松が遊んで欲しくてチョロ松が追いかけているアイドルの握手会で追い出された事を思い出す。
 そこまで考えておそ松はうっかり忘れていたトト子人気アイドル化計画を思い出した。
「と言う事は、チョロ松は今トト子ちゃんと、い、る?」
 それはまずい!
 孫保証を自分も手に入れるにはチョロ松とトト子に間違いがあってはならない。
 チョロ松が女の子の前ではポンコツになると言うことをすっかり忘れておそ松はトト子の家に向かった。
 アイドル活動中のトト子の部屋に男性が突然押しかけて入れるわけが無いのだが、そこはマネージャーであるチョロ松と同じ顔ということが幸いした。
 ベンツを乗りまわすだけあって使用人もいるが、その使用人に言葉を交わしてチョロ松じゃないとバレる要因も急いでいる様子を見て皆が言葉少なく部屋へ通してくれる。
 思っていたよりあっけなく記者会見以来のトト子の部屋に辿り着いたおそ松は勢いよくドアを開けた。
「チョっチョロ松はやまるな! 孫はお前でも産め……る……」
 ドアを開けたおそ松の目の前には内職よろしく沢山の団扇の骨とトト子の写真が印刷された紙が山になっているテーブルを前にしたチョロ松とハタ坊がいた。
「あれ、おそ松兄さんどうしたの?」
 団扇をつくる手を止め、きょとんとおそ松を見上げるチョロ松の傍にはおそ松があわてた要因のトト子はいない。
 間違いは無かった。
 ほっとして片膝をついてぐっと拳を握り締めるおそ松にチョロ松の表情は胡散臭いモノを見る目つきに変わる。
「なに? トト子ちゃんのアイドル活動に一枚かみたいの? おそ松兄さん前科あるから駄目」
 にゃーちゃんの握手会でつまみ出された事をいまだに根に持っているらしいチョロ松の警戒心は明らかに利用しているトト子ではなくおそ松に向けられていた。
 ライブでグッズを交わされたときの値段を思い出し、あんなにぼったくれる商売は楽しそうだと誘惑されそうになるが、扶養の魅力には適わない。
 それにトト子がいないことに安心できる状況でもない。
「それも抗いがたい誘惑だが、それよりも何してんだよチョロ松」
「え? 何ってグッズの単価を下げる為の内職だけど? これで利益率が」
「ちかーう! 何ハタ坊と二人っきりでこんなピンクな空間にいるんだよ!」
 細かい計算を説明しようとするチョロ松の言葉をさえぎりおそ松が叫ぶ。
「うるさいよ。近所迷惑。二人っきりってハタ坊はアルバイトだよ。ピンクな部屋なのはトト子ちゃんの部屋だからだろ。トト子ちゃんが帰ってくる前に帰って」
 律儀におそ松の質問に答えるとチョロ松はおそ松の相手はめんどくさいとテーブルの上の団扇の山に向かって手を動かした。
「ああ、帰るさ。ただし、お前を連れてな」
「え?」
 かっこよく決め台詞を吐き、おそ松は自分を無視しようとしたチョロ松を後ろから抱きしめるように手を伸ばした。
 そしてそのまま驚くチョロ松を片に担ぎ上げた。
「はぁぁあああ!? ちょっちょっと何すんの?」
「うるさい。おとなしく連行されろチョロ松」
「連行って何? 連行って! 俺連行されるようなブラックな事してないよ!」
 トド松からパチンコご祝儀としてお金を巻き上げた事はあるがそれだったらいつものことだしチョロ松だけを連行するというのはおかしい。
「いいから! お前は孫保証というゴールドチケットなんだから俺に保持されていればいいの。何成長を感心したてたハタ坊と二人っきりになってんだよ」
「何分けわかんない事言ってるの!? 成長感心? 何の事言ってんの? とにかくおーろーしーてー」
 同じような体格なのに肩に担いだ者と担がれた者と言う体勢の違いか、抵抗らしい抵抗も出来ずおとなしくチョロ松はおそ松の肩に担がれたまま街を移動する。
 さすがに街中で騒ぐ度胸はないチョロ松がおとなしく担がれたまま小さな声でおそ松を呼んだ。
「お、おそ松兄さん、下ろしてよ。この状態、凄く目立ってるんだけど」
「ん? そんなに俺注目集めてる?」
 少し得意気になったおそ松の声にチョロ松は自分が墓穴を掘った事を悟った。
 しかしこのままでは絶対にほかの兄弟の耳に入る。
 なんせ六つ子なのだ、よくわかっている。あの兄弟たちが面白がってからかってくるくらい想像に難くない。
「おそ松兄さんが注目集めてるんじゃなくて、担がれてる僕が注目集めてるの。目立ってるからやめて」
 注目集めているのが自分じゃなく、むしろ相手を目立たせることになるとわかればこの兄はすぐに自分を放り出す。
 チョロ松の読みは半分外れて、半分当たった。
「それは困る」
 おそ松としてはチョロ松の孫保証の相手となって自分も孫保証な息子になりたいのだ。
 人の好みは千差万別。変に注目を集めてチョロ松に思いを寄せる人間がいたら大変だ。
「だろ? だから下――」
「急ごう」
「――してってはぁ? 俺を下ろせば済む話じゃん! 何無駄に早歩きしてんの!?」
 少し歩調が速くなったところで注目されている事に変化はないのだがおそ松はチョロ松を担ぎなおすと肩の上で騒ぐのを無視してずんずんと歩き出した。
 街中を男が同じ顔をした騒ぐ男を担ぎながら練り歩く様は一瞬注目を集める。が、顔をよくよく見れば「ああ、松野さん家の……」と何かと騒ぎを起こすと見知った顔なのでそのまま関わり合いにならないように顔を背けられつつ、おそ松は目的にたどり着いた。
「お、下ろし、て……」
 叫びつかれてかすれた声でぐったりと訴える肩の上のチョロ松におそ松は自信満々で言った。
「ついたぞ!」
「足が止まったから分かるよ。だから下ろしてよおそ松兄さん」
 すでに街を練り歩いてきたおそ松にいまさらだが訴える。
「ああそうだ目的地についたし下ろすぞチョロ松」
 おそ松のお尻と地面という最悪な視界から久々に開放されてチョロ松はおそ松がついたと言った場所を見上げた。
「おそ松兄さん……」
「何だチョロ松?」
「何でイヤミの家?」
 二人の目の前にあるのはすでに新築の様に復活しているが、ハロウィンで悪戯のかわりに基礎以外を貰ったイヤミの家だった。
「え、何でってうちじゃあいつらいるし」
 チョロ松の問いに何を思い出したのかめんどくさそうにおそ松は答える。
「あいつらってか、いるの当たり前じゃん、兄弟なんだから」
 いつもかまって欲しい時は相手の都合を考えずちょっかいをかけてくるくせに自分が独りになりたい時だけは長男気質でおそ松は自分の行動を忘れたかのように、極端なくらい兄弟を邪険にする。
「だからじゃまじゃん。絶対邪魔される」
 しかし、邪魔されると言うおそ松の表情に今までとは違う何かを感じとりチョロ松は何をと聞いていいのだろうかと一瞬迷う。
「あ、あのさ、何を邪魔されるのが嫌なわけ? 今までも邪魔な事いっぱいあったじゃない。今更そこまで徹底しなくても」
「今まで邪魔されてた事とこれはまったく次元が違うからって言うかチョロ松ちょっと黙ってて」
 チョロ松の手を取ったおそ松はイヤミの家の玄関をドンドンと叩いた。
 叩き続けているといつものようにイヤミが中から叫びながら出てきた。
「そんなに叩くなと言ってるザンスっ! っておそ松じゃないザンスか」
 なんだかんだと言っても気のいいイヤミはハロウィンの事を恨みがましくいい募っては来なかったが何度も同じ目にあうのはたまらないとおそ松たちをにらんだ。
「今日は何の様ザンスか?」
 しかしおそ松はイヤミのにらむ視線も気にすることなくイヤミを押しのけ家の中に入る。
「ああ居た居た、よかったぁ。ドア壊さなくて済んで」
 とんでもない事を言いながらおそ松が靴を脱ぐ。
「あ、お邪魔しまーす」
 手を引かれているせいでおそ松に続くように家の中に入ったチョロ松は申し訳なさそうにイヤミに挨拶をして前を通っていく。
「ちょっ、ちょっとなんなんザンスか! ココはミーの家ザンスよ!」
 勝手に家の中に入って行ったおそ松とチョロ松をあわててイヤミは追いかけた。
「誰も招いて無いザンスよ。なに勝手に襖をあけてるザンス! 二階はミーのプライベート空間ザンスよっ!」
 イヤミがおそ松の行動に過敏に騒ぐがそんな声も無視しておそ松は遠慮なく家の中を散策よろしく襖をあけていく。
 手をしっかり握られているせいでイヤミの騒音付きのおそ松の傍を離れられないチョロ松の眉間に皺がよる。
「ちょっとおそ松兄さん、部屋みたいならイヤミの家じゃなくて住宅展示場とかの方が楽しいよ?」
「住宅展示場じゃ使え無いじゃん」
「はあ? 何を?」
 部屋どころか押入れの襖まで開けていくおそ松にだんだん疲れと呆れが混じり適当にチョロ松が聞き返していたら、ようやくおそ松の足が止まった。
「ああ、ココだ」
 満足げに言っておそ松が足を止めたのは二階の中でも奥まった部屋の押入れの前だった。
「ココはミーの寝室ザンス! 寝るなら家に帰って寝るザンス!」
 布団を出すためにようやく手を離されたチョロ松は部屋の住みに背中を預けて騒ぐイヤミと淡々と布団を敷くおそ松を見た。
「いいじゃん、夜までは使わないんでしょ? あ、新しいシーツは何処?」
「たんすの一番下って勝手に箪笥を開けてるザンスか!」
「だってシーツ入ってるってったじゃん。はいはい、邪魔しないの」
「邪魔ってここはミーの家、ミーの部屋って何度も言ってるザンスよっ!」
 騒ぐ二人を見ながらチョロ松はため息をついた。
 疲れた。
 なぜ自分はここに居るのか。
 静かに寝るためにイヤミの家にまで来るくらいなら何で自分を連れてきたんだろうか。
 どうせ一人じゃ寝られないとか考えるのも馬鹿らしい理由だろう。
 もうイヤミに添い寝してもらえ。
 そう思ってチョロ松が立ちあがろうとした時、聞き捨てなら無い言葉か耳に入ってきた。
「だから、チョロ松と子供つくるんだから邪魔しないでくれる」
 おそ松のその言葉にイヤミもチョロ松もおそ松を見たまま動きが止まった。





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