01

「はぁ〜、もう落ち込むことも面倒になってきた」
 ポストに届いた不採用通知を手にしてチョロ松はため息をついて居間に戻る。
 就活は早めに始めたつもりだが回りはドンドンと決まって息いまだに決まっていないのは周りでは自分ひとりだ。
 再利用できるように履歴書関連を取り出し、封筒をごみ箱に捨てる。
 プライバシーの無い六つ子全員の部屋の唯一のプライバシーが姉様な無いような箪笥のチョロ松名前を書いた引き出しにしまう。
 今日は朝から微熱があるのかだるくて企業を選ぶ気力も無い。
 座布団を枕に横になっていたら一松が猫を抱いて部屋に入ってきた。
「あ」
 横になっているチョロ松に一瞬しまったという顔をしたのを見逃さず、チョロ松は寝転がったまま一松を見た。
「一松、猫と遊びたいなら別にいいけど、一人と一匹になりたいならでてってくれないか。俺は今動きたくない」
 用件だけを伝えてチョロ松が目を閉じると、一松は出て行くそぶりも見せずに枕元に座りこんだ。
 いつもは部屋の隅を探して座る一松が枕元に座りこみぼそぼそと珍しくチョロ松に話しかけてくる。
「気分悪いの?」
「ああ、ちょっととだるいから、独りになりたい部屋の優先順位は譲らないからな。猫の声ぐらいは気にならないけど運動会するならそのときは出て行って」
 そこまでいって腕を交差させて目元を隠しチョロ松は会話も億劫だと態度で示した。
 一松もそれで理解したのかチョロ松の傍からはなれて部屋の隅で疼くまるように膝を抱えて座る。
 そのままじっとチョロ松を見つづける。
 ずっと見続ける。
 ずっとずっと見続ける。
「…………」
 無言のままずっとずっとずっと見続ける。
「……一松」
「あ?」
「視線が気になるんだけど」
 体を動かすのが億劫で、頭上に座りこむ一松を見上げるように頭だけを動かしチョロ松が不機嫌そうな視線を向ける。
「気分悪いなら急変するかもしれないし」
 兄弟随一のネガティブな思考を持つ一松らしい考えだが、理由は自分を心配してのことだから頭ごなしに文句も言えない。
「そんな急変するほどの気分の悪さでもな……い――」
 言いかけて何か胸が杞憂に苦しくなってくる。
 体を丸めるように体勢を変えるチョロ松に一松が驚いたかのように目を輝かせた。
「急変! 急変!」
「おまっ喜んでるだろっ!」
 そのまま知らせる為に飛び出していく一松の背中にチョロ松は叫ぶがすでに一松の急変という声は階下のように遠い。
 これはほかの兄弟達にもばれる。
 ばれれば遊ばれるのは確定だ。
 からかうくらいならばいいが利用されるのはごめんだ。
 ほかの兄弟のときならば大歓迎だが、気分が悪いのが自分だと楽しい事も楽しめないのでつまらない。
「十四松なら気力で治しそうだよなぁ」
 遊ばれるくらいならば肩透かしさせて残念そうな兄弟の顔を見る方が楽しい。
 チョロ松の意識はそこまで考えて途絶えた。
 次に意識が浮上した時、チョロ松は視界のごとく頭が真っ白になった。
 真っ白な天井、真っ白な壁、真っ白なカーテン。
 そして寝ているのは真っ白なベッド。
 明らかな病院と分かるその部屋の内装にチョロ松は真っ青になった。
 まさか自分はとんでもない病気にかかってしまっていたのでは?
 ガバリと起き上がったはいイがそんな事を考えるとまた頭が急に重たく感じ、ふらふらと突っ伏してしまう。
「あ! チョロ松兄さん気が付いたみたいだよぉ」
 カーテンが開き十四松ののんきな声が病室に響く。 
「お、やっと気が付いたのか?」
「大丈夫だったか」
「もう、驚かさないでよチョロ松兄さん」
 おそ松カラ松トド松がそれぞれにチョロ松に声をかける。
 その後ろからそろりと一松が顔を覗かせた。
「皆が部屋に行った時はもう意識なかったから手遅れかと思った」
 ぼそぼそと言う口調がおどろおどろした雰囲気をかもし出し、自分は本当に危なかったのかとチョロ松が自分の病状に不安を抱いた横でおそ松がのほほんと言った。
「いやぁ、俺達の中でオメガが発現する奴がいるなんて驚いたね。オメガって希少性でしょ? 何か特別待遇とかされんのかな?」
 特別待遇があるのなら成り代わって待遇を満喫する気満々のおそ松の言葉にチョロ松が驚く。
「オメガ?」
「チョロ松兄さん、オメガ性になっちゃったんだよ。落ち着くまでしばらく入院らしいよ。その間、僕達も一緒に住む上でオメガ性の勉強しないといけないんだってさ」
 面倒だと隠さない表情でトド松が言う。
「えっと、俺がオメガって……」
 男女の性とは違うもうひとつの性別、アルファ、ベータ、オメガ。
 しかもオメガは男女の性別なく妊娠可能で生態的には弱いとされている。
 六つ子として生まれて今まで生まれた順以外は力関係は平等だったはずなのにただ一人オメガと分かった自分はそのヒエラルキーの最底辺に突き落とされたのだ。
「まあ、落ち着け、俺達はまだ決まって無いだけで、俺達全員オメガって可能性もあるからな」
 長男らしく肩を叩きおそ松がチョロ松を励ます。
 チョロ松にはそのおそ松の手のさえ重かった。
 落ち込みから浮上しそうに無いチョロ松におそ松はみんなに視線で外に出るように促す。
「外見も生活もなんも変わらないからさ。病院生活でナースにお世話してもらう生活満喫でもしてろよ。じゃあな」
 再度肩をポンポンと叩き、おそ松は部屋を出て行った。
 病室を出たおそ松の前には椅子に座るトド松、その椅子の横にうずくまる一松、その反対に壁に腕を組んで寄りかかるカラ松、エア素振りをする十四松と4人の弟が思い思いの格好で待っていた。
「チョロ松兄さん大丈夫かな?」
 トド松がおそ松を見上げて言う。
「まあ、今は驚いてるだけなんじゃない? 俺達もオメガの講習受けなきゃいけないんだからあいつはもっと色々勉強させられんだろうな。ほんとオメガって大変だな」
 のんきに言いながら病室から早く離れたいかのようにおそ松は歩き出した。
 静かな病室では廊下のおそ松の声は丸聞こえで、チョロ松は離れていく兄弟達の声を聞きながらベッドの中で丸くなった。
 オメガってだけであの兄弟達にさえもこんなにも気を使われる。
 チョロ松はベッドの中でぐっと拳を握り締めた。
 オメガだってあんな兄弟のなかでのヒエラルキーの最底辺になんてなるもんか。
 誰よりも上に立ってやる。
 チョロ松は硬く決心した。


クズはオメガにも劣るヒエラルキー最下層な認識(笑)。





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